小原ききょう(創作家)

長編小説や詩、エッセイなどを「エブリスタ」「ツイッター」等で書いています。

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【連載小説一覧】

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はてなブログ」に順次連載していきますのでよろしくお願い致します。

 

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魔鏡④

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魔鏡④

 

 

鏡の所持を禁じる国で

鏡を手に入れた少女は

毎夜 鏡に問うた

 

鏡よ この世界で一番美しいのは誰

 

その回答はいつも同じだ

もちろんそれは自分だ

少女は大満足だった

 

だが

数十年経ち

鏡に映るのはいつも老婆だった

鏡の嘘つき!

女は鏡を叩き割り

その破片で視力を失った

 

「時々、僕は透明になる」⑥

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◆帰宅

 

 自宅まで、徒歩20分、つくづく電車通学でなくてよかったと思う。透明だったら改札はどうなることやら。

 けれど、問題はここからだ。

 家に帰っても母に見えなかったらどうする?

 声は出るだろうから・・

念のため「あああ・・」と出してみる。ちゃんと声は出る!

 母に言って病院に連れて行ってもらうべきか、それとも一人で行くべきか・・

 いやいや・・

 僕は頭を振った。

頭が変だと思われるし、それに、透明のままだったら、しかるべきところに通報されるだろう、とそう思った。怪しい組織まで現れ、人体実験なんかされたらたまったものではない。

 

その時、

「ちょっと君!」

 振り返るとただの中年男だった。

 え?・・僕が見えてるの?

「財布落としたよ。これ、君のだろ?」

 サラリーマン風の中年男は僕の財布を差し出した。

 さっき慌てて尻のポケットに突っ込んだままだったから、抜け落ちたのだ。

「すみません。ありがとうございます!」

 僕は深く感謝した。

腰を折りながら、またさっきとは違う涙が溢れていた。

 元に戻っている!

 僕は透明じゃない!

 僕は嬉しくて思わず、財布を拾ってくれた男に抱きつきそうになる。

 男は「礼なんていいよ」と言って先を急いでいった。

 

 男が去った後、念のため、両手を広げて、見る。透明じゃない! 

 今度は太陽にかざしてみる。更に喜び倍増だ。

 生きている、そんな実感が沸いてくる。

 もう帰ろう。家でいつも通り、母の手料理を食べ、風呂に浸かり、いつものように勉強をしよう。

 そして、明日は・・

 しかし、また今日のようなことが・・いや、今は考えないでおこう。

 

 家に帰ると、母が「何? こんな早い時間に・・熱でもあるの?」と訊かれ「ちょっと、気分が悪くなかったから、先生に言って早退させてもらった」と答えた。

 不可抗力の嘘だ。母には嘘のつきっぱなしだ。

「しばらく部屋で寝る」と言って勉強部屋に入った。

 そして、本当に眠り込んでしまった。

 

 

 

「三千子」~ 記憶に残らない女⑥

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 近藤は言った。

「俺さあ、ほんの短い間だったけど、三千子とつき合ったんだよ」

「男女の関係か?」と俺は訊いた。

 近藤は「もちろんさ」と応えて、「けど、ただの遊びだったんだ。丁度、女と別れた直後だったからな」とにやっと笑った。

「三千子は、近藤の誘いに乗ってきたのか?」

 近藤は遊び人だ。何人もの女が陰で泣いていると聞いたことがある。

「いや、そんなに簡単じゃなかった」

「近藤でもか」

 近藤は女を誘惑することに長けている、そう自分で豪語していた。学生時代、女をひっかけて失敗したことはない、100%成功している。そうも言っていた。

「だがな・・」

近藤はイヤな物でも噛んだような顔をして、

「中谷の名前を出すと、すぐに誘いに乗ってきたんだ」

「俺の名前を?」

 三千子が、俺の名を聞いて、近藤の誘いに乗った・・

 その言葉で、少しずつ、俺は三千子のことを思い出してきた。

 

 学生時代、三千子は、俺が何気なく見た女性の体型を気にして、痩せたり、太ったりを交互に繰り返していた。

 それは体型に限ったことではない。

ある時は、派手な女の子が俺の好みだと勝手に思い込み、派手な衣装に身を包んだり、又は、その逆の時もあったりした。

そんな繰り返しの中、どれが本当の三千子の姿なのか、分からなくなっていった。

 それが、三千子が記憶に残っていない原因なのかもしれない。

 

 次第に俺は、そんな三千子を疎んじるようになっていた。

 つき合って、二年。それほど、長く関係が続いたのは、俺の好みに合わせて、変化する三千子と一緒にいることが心地良かったのかもしれない。俺にとっては、男冥利だったのだろう。

 

 だが、そう思っていても、終わりは迎えるものだ。

どうして、俺が三千子と別れようと思うようになったのか?

それは、俺の只の一方的な都合だった。

 当時、俺は、大学のゼミの大学教授の進める縁談話に乗りかけていた。

 相手は、一流企業の重役のお嬢さんだ。

俺は、人生の成功コースを歩み始めていた。もちろん、三千子には黙っていた。

 紹介された女性は魅力的だった。

 三千子と同じように、髪が長かったが、雰囲気は全く違った。明るい女性だ。

 俺の中に、未来に向かっての光が差したようだった。

 

 そんな昇りしかないエスカレーターの中では、三千子はただの邪魔者でしかなかった。

 だが、別れ話をするような機会は中々訪れなかった。

 その理由・・三千子がそうさせなかったのだ、

 少しでも、そんな話の素振りを見せると、三千子が他の方向に話題をそらす。

 中々切り出せない。我ながら男らしくないと思った。元々、何かの決め事を人に話すのは苦手な方だった。

 

 だったら、会わなければいい・・そう思う。

 だが、そうもさせてはくれなかった。

 三千子はどんな時にでも会いに来る。怖いくらいに会いに来る。

 俺が病気で寝込んでも、間借りしていたアパートに押しかけて来ては看病する。大学でも、大学でも授業が終わるまで待っている。

 そんな日々の中、歳月は、あっという間に過ぎ去っていった。

 市村三千子は、

 記憶に残らない女ではなく、一番忘れ去りたい、記憶から消し去りたい女だった。

 

 そんな俺の中で、一つの考えが浮かんだ。

 小さな考えは、日を追う度に、大きくなっていった。

 三千子が邪魔だ・・消えてくれればいい、と。

 

 近藤が、三千子を関係を持っただと?

 そんなはずはない。絶対にだ。

 それは俺が一番よく知っている。

 ・・俺は、記憶を呼び戻していた。

 

 

「時々、僕は透明になる」⑤

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そんなことを考えながら、僕は斜め前の窓際の席の水沢純子を見た。

僕の苦しみとは対照的に水沢純子が涼しげに先生の話を聞いている。

窓の外の青い空に水沢さんの黒髪が溶けている・・そんな風に見えた。

ああ、このまま、透明のままだったら、あの髪に触れることができるのだろうか。

 

だが、僕は彼女を見ながらも別のことを考えていた。

僕の透明化は服ごと、メガネごと消える!

眼鏡を外してみても、眼鏡が見えない。

体がガタガタと震えだした。

試みに眼鏡を机の上に置いた。

僕の手から眼鏡が離れると、眼鏡が出現した。慌てて僕は眼鏡をかけ直した。これで眼鏡は消えたはずだ。

左横の加藤が訝しげにこちらを見ている。

自分自身の目を疑っているのか、何か考えている様子だ。

僕を見ているのか、さっき置いた眼鏡を見ているのかどうか、わからない。

いや、もうそんなことはどっちでもいい。

 

この状況を整理する。

僕の身に着けているものは透明化し、僕から離れれば見えるようになる。

そういうことだ。

けれど、一つおかしなことがある。僕の後ろの席の速水沙織にはおそらく僕が見えている。どうして?

 

「なあ、鈴木ってさあ、今日、休んでたっけ?」

右横の佐々木が更にその隣の田中に訊いている。

まずい、まずい・・僕のこの病気が他の奴に知られたら・・

「さっき、いたような気がするぞ」

「いた、いた・・けど、今はいない」

「でも、鞄、掛けてあるよぉ」

「トイレに行ったんじゃない?」

「もう鈴木なんて、どうでもいいじゃん。」

 

そうか・・やっぱり、僕は影が薄いんだ。

人間って、存在感が薄くなり過ぎると透明になるものなんだ。

 

「ちょっと、そこっ、授業中はしゃべらないように!」

 教師の声に右の佐々木も左の加藤も前に向き直る。後ろ席の速水沙織の様子はわからない。

 

 こうなったら・・こうするしか。

僕は思い切って手を挙げた。

その手も僕には見えない。

教師には何の反応もない。周囲の生徒にもない。

僕に見えないものに誰かが反応するわけがない。

 

すると、背中をペンか何かで鋭く押された感触があった。

「鈴木くん、何してるの? 手なんか挙げたりして」

振り返ると速水沙織がシャーペンで小突いているのだった。

 

 おそらく、僕の姿は・・速水沙織を除いては誰にも見えていない。

 それが僕の出した結論だ。

 

 教科書に手を触れると、教科書も消え、同じように筆記用具も消えた。

 机に掛けている鞄を持つと、予想通り、鞄も消えた。

 

 僕は静かに立ち上がり、抜き足差し足で音を立てないように教室を出た。

「鈴木くん!」

誰かが呼びかけたような気がしたが、それが速水沙織の声なのか、他の誰かなのか、もう判断できなかった。

 

 廊下に出ると、心臓の鼓動もそうだが、全身が痙攣し、寒くもないのに、震えていた。

 

 家に帰る他はすることもない。

 帰途につくと、自然と涙が溢れだしだ。

 あとは、家にいる母・・僕の帰りを待っているお母さんしかいない。

 

 

 

「三千子」~ 記憶に残らない女⑤

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◆別れる理由

 

 窓の外の暗闇に、ピカッと一条の光が走った。数秒、間を置いて雷の音が響き渡った。かなり大きな音だ。

 同時に、店内の照明が、パチパチッと言う小さな点滅音がして、灯りが点いたり消えたりした。

 近くの女性客が「やだ、停電になるのかしら?」と恐々言っている。

 近藤は、「俺、雷は苦手なんだよ」と変な笑いを浮かべた。

「女は得意なのにな」と俺は突っ込んだ。

 

 それより、

「なあ、近藤。何でまた、三千子の話をしたんだ?」

 俺は近藤に尋ねた。どうして、三千子の話が出てくるのか?

「ああ、会ったんだよ」と近藤は答えた。

「え・・三千子に!」

 心臓が激しく鳴った。

「どうしたんだ。中谷、そんなに驚いた顔をして」

 近藤は、俺の顔を見ながら言った。

「いや、何でもない」

俺は気を取り直し、「それで、どこで三千子に会ったんだ?」と訊いた。

「つい最近だよ」と近藤は言った。

「最近だって!」

 雨が強くなってきた。ガラス窓を大勢の人間が叩いているように思えた。

外にいる人間が、「はやく中に入れてくれ!」

そう叫んでいるような気がした。

 窓が閉まっているはずなのに、雨が店内に降り込んでくるような錯覚に陥った。

 

「なんだよ、中谷、またそんなに驚いた顔をして」

近藤は繰り返し言った。

 何か、イヤな感じが胸の中を襲った。脈も速くなっているのがわかる。

 昔、つき合っていた女、三千子という存在が俺の中で急速に膨れ上がった。

 

「彼女、綺麗になっていたよ。痩せてもいないし、もちろん、太ってもいない」

「そ、そうか」

 中肉中背ということか。それに、綺麗に・・

 その後、近藤は「だがな・・」とつけ加え、こう言った。

「あの三千子っていう子、ちょっと変わっているよな」

「どう変わっているんだ?」

「生気がない、というか」

 そう近藤は言った後、「実はな、中谷、お前に言うか、言うまいか、迷ったんだけどな」と言った。

「なんだよ、水臭い。何でも言えよ」と俺は近藤を促した。

 近藤は、ハンバーグを咀嚼した後、水を飲み、口の中のものを流し込んだ。

「中谷、怒るなよ」

「だから、怒らないって」俺は、大きく言った。

三千子がその後、どんな様子なのか知りたかった。好奇心なんてものじゃない。どうなっているのか、それを知りたかったのだ。

 

 

 

魔鏡③

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魔鏡③

 

鏡に映るのは左右が逆だ

上下が逆になることはない

 

不思議に思った女は

逆立ちをしてみた

当然 髪が垂れ逆さの女が映っている

 

自分の愚かさに気づいた女は風呂に入ったが

鏡の中の立像は女から男に変わっていた

 

 

 

 

 

魔鏡②

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魔鏡②

 

女は鏡に向かってナイフを振り上げた

憎い男に突き立てたかったからだ

 

当然そんな勇気はない

女はナイフを仕舞い寝た

 

翌朝

一人の男の〇体が見つかった

その凶器の形状は

女が鏡に見せた物と同一だった

 

願いが叶った女は別の標的を定め

ナイフを手に今夜も鏡の前に立った