小原ききょう(創作家)

長編小説や詩、エッセイなどを「エブリスタ」「ツイッター」等で書いています。

連載小説「時々、僕は透明になる」

「時々、僕は透明になる」⑥

estar.jp ◆帰宅 自宅まで、徒歩20分、つくづく電車通学でなくてよかったと思う。透明だったら改札はどうなることやら。 けれど、問題はここからだ。 家に帰っても母に見えなかったらどうする? 声は出るだろうから・・ 念のため「あああ・・」と出してみる…

「時々、僕は透明になる」⑤

estar.jp そんなことを考えながら、僕は斜め前の窓際の席の水沢純子を見た。 僕の苦しみとは対照的に水沢純子が涼しげに先生の話を聞いている。 窓の外の青い空に水沢さんの黒髪が溶けている・・そんな風に見えた。 ああ、このまま、透明のままだったら、あ…

「時々、僕は透明になる」④

estar.jp ◆授業中に発症 5月の日差しが、教室の窓に反射している。 窓際の席にはまるで後光が差しているような女の子、水沢純子が懸命に教師の話を聞いてノートをとっている。 その姿を切り抜いて額に飾りたいくらいだ。 僕は水沢純子に恋をしている・・ け…

「時々、僕は透明になる」③

estar.jp ◆通学路にて いつもの通学路、あえて「いつもの」という言葉を使いたいくらい、いたって何でもない一日が始まろうとしている。 昨晩の衝撃が体のどこかにまだ残っているのか、少し、体がだるいことを除けば何でもない朝だ。 目の前を同じクラスの男…

「時々、僕は透明になる」②

estar.jp シャーペンを握る手が薄い・・いや、透明に見えた。机の木目が透けて見えている。 右手をくいと参考書の見開きの前に置いてみた。同じく活字が透けてよく見える。 眼鏡を外し、右手を左手で掴んでみる。 確かにある。右手の感触があるし、肩から右…

「時々、僕は透明になる」①

estar.jp 「時々、僕は透明になる」 (序) 「人を好きになるのに、理由なんていらない」 そんな言葉があるけれど、 人を好きになるのには必ず理由があると思う。 でも、その理由は探してもなかなか見つからないものだ。 もし見つかったとしても、人には言え…