小原ききょう(創作家)

長編小説や詩、エッセイなどを「エブリスタ」「ツイッター」等で書いています。

連載小説「三千子」~ 記憶に残らない女

「三千子」~ 記憶に残らない女⑥

estar.jp 近藤は言った。 「俺さあ、ほんの短い間だったけど、三千子とつき合ったんだよ」 「男女の関係か?」と俺は訊いた。 近藤は「もちろんさ」と応えて、「けど、ただの遊びだったんだ。丁度、女と別れた直後だったからな」とにやっと笑った。 「三千子…

「三千子」~ 記憶に残らない女⑤

estar.jp ◆別れる理由 窓の外の暗闇に、ピカッと一条の光が走った。数秒、間を置いて雷の音が響き渡った。かなり大きな音だ。 同時に、店内の照明が、パチパチッと言う小さな点滅音がして、灯りが点いたり消えたりした。 近くの女性客が「やだ、停電になるの…

「三千子」~ 記憶に残らない女④

estar.jp 外を見ると、更に雨が強くなっているのがわかる。窓際の席。ガラス窓の上を雨粒がタラタラと伝っている。 目の前の近藤は、大きなハンバーグを食べながら、 「その時からだよな? 市村三千子が痩せ始めたのは・・」と話を戻した。 「ああ・・そうだ…

「三千子」~ 記憶に残らない女③

estar.jp 確か、あれは、授業が休講になり、大学のラウンジで、三千子とお茶を飲んでいた時だ。 彼女と話すことにも飽き、暇を持て余した俺は、ラックの週刊誌を手に取り、パラパラと捲っていた。 何となく、その中のアイドルのグラビアを眺めていた。 そん…

「三千子」~ 記憶に残らない女②

estar.jp ◆深夜のファミレス 雨の夜だった。 深夜のファミレスで 俺は久しぶりに会った大学時代の友人と食事をしていた。 遅い時間ともいうこともあって、家族客はおらず、店内は閑散としていて静かだった。おまけに、外は長雨だ。時折、雨宿り代わりに一人…

「三千子」~ 記憶に残らない女①

estar.jp 「三千子」~ 記憶に残らない女 ◆記憶 どうしても、記憶から欠落してしまう人間がいる。 例えば、何度も会ったことがあるはずなのに、顔を見ても、誰だったか思い出せない。 またその逆に数回会っただけなのに、その人の顔はもちろんのこと、その人…