小原ききょう(創作家)

長編小説や詩、エッセイなどを「エブリスタ」「ツイッター」等で書いています。

「三千子」~ 記憶に残らない女④

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 外を見ると、更に雨が強くなっているのがわかる。窓際の席。ガラス窓の上を雨粒がタラタラと伝っている。

 目の前の近藤は、大きなハンバーグを食べながら、

「その時からだよな? 市村三千子が痩せ始めたのは・・」と話を戻した。

「ああ・・そうだ」

「他の奴ら、みんな驚いていたぜ、市村が、中谷の好みに合わせて、ダイエットしているんだってな」

 そう、あの日から、三千子はダイエットを始めた。

 だが、俺は、そんなことは望んではいなかった。

 だが、そのことを言えない雰囲気が三千子にはあった。何かに憑りつかれているように見えたからだ。

 

 あの後、どうなったのか?

 今度は、三千子は太り始めた。

 その原因は・・すぐに思い出した。あれは学祭の時だ。

 人の往来の中、俺は三千子と並んで歩いていた。いわゆる学祭デートだ。にもかかわらず、手は繋がず歩いていた。そんな仲だったのかもしれない。

 確かチアリーディングの演習だった。その時の俺は、そんな女の子に目がいっていた。

 その中の子が無邪気で可愛く見えたのかもしれない。

 今思えば、なぜ俺がそんな演習に目が吸い寄せられるように見入ってしまったのか、分かる気がする。

 息苦しかったのだ。三千子といることが。

 

 三千子がいるにも関わらず、俺は一人の女の子に釘付けになった。

 ・・その子は、その女の子の体型は、ぽっちゃりしていた。

 

 次々と思い出した。

 三千子は、その次の日から呆れるほど食事を多く摂るようになった。食事にはスナック菓子も含まれる。スナック菓子を俺のいないところでも、目の前でも食べ続けた。

 お約束のように、三千子は太り出した。

 俺がチアリーディングの子を見ていたのは、別に彼女が太っていたからではない。明るく見えたからだ。

 だが、そんなことを解さない三千子は、俺が太った子が好みなのだと、勝手に解釈し、走り出したのだ。