小原ききょう(創作家)

長編小説や詩、エッセイなどを「エブリスタ」「ツイッター」等で書いています。

「三千子」~ 記憶に残らない女①

estar.jp

「三千子」~ 記憶に残らない女

 

◆記憶

 

どうしても、記憶から欠落してしまう人間がいる。

 

例えば、何度も会ったことがあるはずなのに、顔を見ても、誰だったか思い出せない。

またその逆に数回会っただけなのに、その人の顔はもちろんのこと、その人と話した会話の内容を鮮明に憶えていたりする。

 

 ネットの中の言葉もそうだったりする。ご大層なことを書いているにも関わらず、誰の目にも留まらない。

 数が多いのに、誰にも相手にされない。またその逆に、たまたま書いた言葉が多くの人々を引き寄せたりする。

 ・・目に見える人間も、ネットの言葉も同じだ。

 

 そのことを誰かに話すと、

「そういうものだ」と返事が返ってくる。

 そして、「記憶に残らない人間は、きっと影が薄いんだよ」と断定される。

 更に追い打ちをかけたがる人間は、

「そんな人間は、魂の質量が軽いんだよ」と、まるで哲学者のように言ってのける。

 魂の質量? 

果たしてそうだろうか?

 

 それならそれでいいが、

 その対象が、自分のつき合っていた相手だと、非常にやっかいなことになる。

 何年か後に、自分の生活に関係してくることがある。

 

 つき合っている時は、それほど意識していなかったが、別れてからおかしなことになる。

 大変おかしなことに・・なってしまう。

 ある時は、自分の身や家族をも危険にさらすことになる。

 

 そして、あることに気づいてしまう。

 一番、記憶に残っていなかった女性が、人生で最も存在感のある人間だったことを。

ただ、忘れようとして、記憶の底に封じ込めていただけに過ぎなかったことを。