小原ききょう(創作家)

長編小説や詩、エッセイなどを「エブリスタ」「ツイッター」等で書いています。

「時々、僕は透明になる」①

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「時々、僕は透明になる」

 

(序)

 

 「人を好きになるのに、理由なんていらない」

そんな言葉があるけれど、

  人を好きになるのには必ず理由があると思う。

 

でも、その理由は探してもなかなか見つからないものだ。

もし見つかったとしても、人には言えないものだったりする。

 

それは、相手の中の、自分だけが知っている秘密だからだ。

 

◆予兆

 

 僕は昔から、影が薄い・・

うすい、うすい、と言われ続けてきたけれど、まさか、ここまで薄くなってしまうとは・・

いや、薄いどころか、透明に・・

 子供の頃、SF小説で読んだことのある透明人間・・それが今の僕だ。

 僕の体が完全に透明になったと認識した場所は僕の勉強部屋、僕を透明人間だと気づいたのはある女の子だった。

 

 僕は高校二年、言うほどの進学校ではないが、それなりに、受験勉強をしていた。

 そして、それなりの恋も・・

 分厚い参考書を開き、問題集を睨み、片方では片思いの女の子ことを考えていた。

 時間が経過するに従って、問題集を解く時間よりも、彼女のことを考える時間の方が増えていく。

時々、たまらなくなってクラスの集合写真を取り出し、彼女を見る。

 見たからと言ってどうなるものでもない。

 ノートの隅に彼女の名前を連ねてみる。書いたからと言ってどうなるものでもない。

 

 そんな邪念を追い払いながら、勉強を続ける。

どちらかというと眠気と戦う苦痛の時間だ。 

 それにしても、眠い。彼女のことを考えていても眠いものは眠い。

 

おそらく、夜の10時頃だったと思う。

 突然、体がふわりとした感覚がした。

あれ?・・さっきした椅子の高さ調整が悪かったのか?

 

 最初は勉強机のスタンドの灯りのせいだと思った。